特集 木質部材を活用した混構造 事例で知る混構造の設計法
地産材CLTパネルを耐震要素とした鉄骨ハイブリッド構造 西米良村新庁舎 徳岡浩二〇徳岡設計
【建物概要】
用 途:庁舎
構 造:鉄骨造(一部鉄筋コンクリート造)
階数:地上4階建,高さ:15.8m
建築・構造・設備:(株)徳岡設計
施 工:坂下・河野特定建設工事共同企業体
CLT製作・施工:山佐木材(株)
建築面積:598m²
延床面積:1,552m²
竣 工:2019年3月
所 在 地:宮崎県児湯郡
はじめに
宮崎県西米良村は熊本県との県境に近い九州山地の中央部に位置する山深き里。 面積の96%を森林が占め, 林業が盛んであり, 山襞に隠れるように小さな集落が点在する宮崎県内でも最も人口の少ない自治体である。本計画は昭和42年に建築された村役場庁舎の老朽化に伴う建替え計画であり,災害に強い庁舎づくりとともに、約1,000人の村民に親しまれ, 村のシンボルとなる庁舎が求められた。村が有する豊富な森林資源を活かすため設計当初は木造も視野に入れて検討を進めたが, 計画敷地も狭小かつ崖に近接しているため,大規模木造建築物に必要な敷地内通路の確保が困難であった。 また,役場のある集落も限られた範囲に木造家屋が密集しており,新庁舎も隣家との間に十分な離隔距離を確保できないことから,発注者としても木材利用は推進しながらも高い防耐火性能を確保したいとの意向があった。本計画ではこれらの課題に対し,主要構造部を耐火構造とした鉄骨造を採用しつつ, 構造材の一部や内外装に木材を活用する形で解決を図っている
構造計画
本建物は建物外周にバルコニーを有し寄棟屋根とした矩形平面の4階建庁舎であり, 主架構が鉄骨造で耐震要素としてCLTパネルを取り入れた混構造である。計画敷地は南北で1フロア分の高低差があり, 役場としての主玄関は2階に配置されている (1階からもEVでバリアフリーでのアクセスが可能)。1階は主に駐車場・倉庫として利用され、一部に片土圧を受ける耐震壁付きラーメン構造を採用した。 役場のメインフロアとなる2階と議場や村長室などがある3階は、間取りの自由度が高い鉄骨ラーメン構造を基本とし妻壁のみにCLTパネルの耐震要素を配置した計画としている。 4階には河川が氾濫しても、 庁舎機能が維持されるよう電気室・機械室が配置されている (図1~3基礎形式は旧庁舎の基礎底レベルに合わせて強固な砂岩を支持地盤とした直接基礎としている。 2~3階は,X方向が約26.10m (最大スパン7.2m, 3スパン),Y方向が約23.15m (最大スパン 9.9m, 2スパン) となっており, Y方向は柱スパン間に3~4枚のCLTパネルを配置し, パネル自体に鉛直荷重を負担させない形で鉄骨およびRCに緊結させることで 「CLTパネル工法」の適用外として取り扱っている。 また, 国交省基準により庁舎機能の施設は重要度係数I類となるため, 法定基準の1.5倍の保有水平耐力を確保した。
◎CLT 壁パネル
CLTパネルの仕様は、 平成28年国交省告示第611号第五第三号イに適合する無開口パネルを用いた小幅パネル形式として, 強度等級・ラミナ構成はS60-5-7(210mm厚) である。 接合金物は, 2016年公布・施行CLT関連告示等解説書 (日本住宅・木材技術センター) に記載されたXクロスマーク金物を使用している。混構造規定1階をRC造, 2~4階を鉄骨造とした混構造でありRC造の剛性が上階に比べて非常に高くなることに配慮して,剛性率, 偏心率について記載されている「建築物の構造関係技術基準解説」 各項を満足することでFs, Fe割増しを行わない設計とした。
モデル化・解析
一貫計算プログラムでCLTパネルを含む混構造の構造計算を完結させるために, CLTパネルを鉄骨造としてモデル化した。一次設計時に一貫計算プログラム (BrainⅢ)と応力解析プログラム (Midasi Gen) との弾性変形を一致させるモデルを作成し, そのモデルをベースに一貫計算プログラムを用いて二次設計も行った (図 4,5)。一次設計時に弾性変形を合わせる方法は, ① CLTパネルの剛性を鉄骨ブレース (圧縮考慮) のトラス効果によって変形が合うように、両解析の変位量を近似させトライアンドエラーしながら変形調整を行った (表1)。 CLTパネルのアンカーボルトを鉄骨間柱に置換するために, ② アンカーボルトの断面積と鉄骨間柱の断面積を応力ひずみ式によって等価置換することでアンカーボルトの引張ばねを一貫計算プログラムで再現した。また, 終局時にアンカーボルトの降伏耐力を,鉄骨間柱の終局軸耐力(引張) に入力し, 鉄骨間柱が降伏した後に鉄骨ブレース (CLTパネル) へ水平力の加力が進行しないようなモデルを再現した。
二次設計での Dsは, メカニズム時に鉄骨梁ヒンジを想定した全体崩壊形とすることで, CLT 関連告示に定められたDs0.4による計算を行っており, S造に比べてCLTパネルのDsの方が大きいことから安全側に採用した。CLTパネルが接合する大梁の端部が先行して降伏するように,中央部材に比べて端部材の断面性能を小さくし,また, CLTパネルを圧壊させない配慮として,CLTパネルのアンカーボルトが鉄骨大梁よりも先に降伏するように双の耐力バランスを確認・調整した。また,大梁継手はせん断力を伝達できるだけの強度を確保したピン継手とした。 CLTパネルが負担した応力を,確実に鉄骨大梁に伝達できるように鉄骨接合部のアンカーボルト周囲にスチフナによる補強をして,大梁のウェブが面外へ座屈しないようにした。鉄骨大梁とCLTパネルのアンカーボルトとの応力調整の関係で、水平力負担がおおむね決定している。 結果として, CLTパネルの水平力分担率は一次設計50~60%, 二次設計 40~50%となっている。
施工
CLTパネルはRCおよび鉄骨大梁と取り合うため,接合部の納まりに問題が生じないようコンクリート配筋図,鉄骨製作図および CLTパネル製作図について十分に確認を行った。 特に最下階のCLTパネル柱脚とRCとの取合いは、上部の鉄骨との取合いを考慮してパネルと同幅のテンプレート(鋼板とアングルの組み材)をコンクリート打設に先立って配置することで, 施工誤差を極力小さくし, アンカーボルトが乱れにくいように配慮した (図6)。 施工者にとって初めてのCLTパネル工事となるため, 現場施工に先立って建方の一連の流れが伝わる図を作成して説明を行い, 構造的な要点を理解したうえで施工に臨めるように配慮した (図7)。具体的な施工手順は,床スラブのコンクリート打設後にCLTパネルのアンカーボルトを緊結し, その後CLTパネル下部にグラウトを充填することで鉛直荷重を鉄骨梁・柱のみが負担するディテールとしている。本庁舎は耐火建築物 (法適合の要件ではない) であるために,主要構造部 (鉄骨)に1時間の耐火性能が求められたが, 水平力のみが作用する CLTパネルには耐火被覆などが必要なく, 室内側はそのまま構造体を現しとすることが可能となった。発注者による木材の調達と維持管理公共建築の場合,単年度のスケジュールの中で産地指定での調達となると非常にクリティカルな工程となるが,今回の計画では役場内の関係部署や外部関係者が事前に連携を取り, 工事に先行して村有林から木材を伐採,一時保管のうえで供給していただくことができた。 また, 工事段階で材料が不足した際も臨機応変に対応いただいたことで, 内外装仕上材を含め適材適所の木材利用が可能になった。また,村には木材の経年変化や劣化について精通した職員も多く在籍している。 本計画では外周にバルコニーを設けて庇機能により紫外線や水への耐久性を高め、塗装の更新を容易にしており, 内部のCLTパネルについてもボルト締め付け部分を点検ができるようなディテールとしている。 これらの設計上の配慮と職員の日常の点検・維持管理によって, 「持続可能な建築」として永く使い続けられることを期待している。
おわりに
今回の計画では西米良村産木材を魅せることにこだわり, CLTパネルを構造体現しとして採用することで、同じく村産材によるスギ本実加工板張り (通気工法) の外装仕上げ, 魅力的な年輪をデザインに取り入れた内装木質化と相まって,機能を兼備しつつ木の視覚的効果を高めた西米良村に相応しい庁舎が実現できたと考えている。今後は村の観光・林業振興のPR拠点として, 表面に節が少なく美しい村産材の魅力を村内外に発信する役割も期待されている。構造計画として今回の計画が、鉄骨ブレースによる計画に比べ単純な経済合理性で劣ることは否めない。しかしながら木材利用を推進する流れの中で, 山間斜面地の狭小敷地における鉄骨造耐火建築物においてもCLTパネルという新しい木造技術を活用することで,構造体の力強さ, 美しさをそのまま表現する 「用・強・美」の伝統を追求することができた。最後に, プロポーザル特定後に発注者である村長との懇談で「無理に木造にこだわらず適材適所に木を使って合理的な設計を心がけてください」 といわれその造詣の深さに迷わず構造を選択することができたことを申し添えておきたい。
(とくおか こうじ)